光圀伝〈上〉/冲方丁
○はじめに
今回は冲方丁著「光圀伝」を読みました。
三宅乱丈によって漫画化もされ、大河ドラマへの期待もある作品のようです。
○読むきっかけ
冲方丁著「天地明察」が面白く、内容がリンクしている「光圀伝」も気になっていました。さらに歴史小説が好きなため、いつか読もうと決めていました。
○内容
◆あらすじ
泰平の世を駆け抜けた熱き“虎”、水戸光圀。
なぜこの世に歴史が必要なのか――。本屋大賞受賞『天地明察』と対を為す、大河歴史小説!
「なぜあの男を自らの手で殺めることになったのか」――老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎でその経緯と己の生涯を綴り始める。
父・頼房の過酷な“試練”と対峙し、優れた兄・頼重を差し置いて世継ぎに選ばれたことに悩む幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れる中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて文事の魅力に取り憑かれた光圀は、学を競う朋友を得て、詩の天下を目指す――。
誰も見たことのない“水戸黄門”伝、開幕。
(Amazonより引用)
◆印象に残ったところ
- 敵対視していた兄より読書のあり方を教わった光圀は、ありのままに読書を楽しめるようになる。
「全部読んで理解しようとしなくていいんだ。自然、自得のままに読むのが一番さ」というふうに、読書の楽しみ方を教わった。
(「光圀伝」P81)
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人は経験を積む度にものの見え方が変わってくる。
同じ言葉でも質量を持って響き、天啓の如く人生に影響してくることもある。
「天地の狭間にあるもの、悉くが師だ」
そう告げられた途端、不思議な感覚に襲われた。点が壁のようにそびえ立ち、武蔵が杖で示した一点が中心となって、大地と一緒に自分を取り囲んでいるようだった。天地が自分を取り囲んでいるのは当たり前である。だが当たり前のことが、驚くほど鮮やかに認識されていた。まるで今初めて天地の存在に気づいたという感覚だった。
(「光圀伝」P182)
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欺瞞を知りながらも真っすぐに誠意を持つことは難しい。
泰姫のような素直さがまぶしく感じた。
姫のいう正直さは、いわば“誠”の清潔さであろう。ただ世間知らずなのではない。欺瞞の泥にまみれながらも一片の清潔さを守り通す、白蓮のごとき誠意である。もし釈迦が座るという白蓮が実在するなら、この姫の膝のように柔らかで温かであろいうと思われた。
(「光圀伝」P519)
◆感想
長子である兄を差し置いて世継ぎになった不義に悩まされる光圀。
宮本武蔵との出会いから多くのことを教わり詩で天下を取る決心をしたり、林羅山の息子・読耕斎と論法勝負を経て生涯の友人になるなどの青年期を過ごす。しかし、光圀は兄への不義を重く感じていた。
文事に傾倒していく中、学問から不義を絶つための大義を考えつく。兄の子を養子に迎えて水戸藩を継がせて、自分の血筋を絶やすことである。
覚悟を決める光圀は大義を全うしようとするが、不義を生み出したとも云える父・頼房と同じ行動に出ているところに因果を感じざるを得ない。
真っすぐに成長していく青年期の光圀に魅せられる痛快なストーリーの上巻。
○まとめ
光圀の青年期を描いた痛快歴史小説でした。
歴史小説が好きな方におすすめの小説です。